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東京家庭裁判所 昭和54年(少)5267号 決定

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は

1  昭和五四年二月二二日午前四時ころ、東京都中野区○○×丁目×番×号区立自転車置場においてAと共謀のうえ、C所有の自転車一台を窃取し、かつ、所有者D子の占有を離れ同所に置かれていた自転車一台をほしいままに乗り出して横領した

2  同年六月二九日午後三時三五分ころ、同区○○×丁目××番×号所在○○区立○○中学校×階×年×組教室において、同組の生徒Eと口論中、これを制止しようとした同校教諭F(当時三二歳)に対し、後方からその右大腿部を足で蹴りつけ、同人に全治約二週間を要する右大腿打撲症を負わせた

3  昭和五二年四月上記○○中学校に入学したものであるが、二年生の後半ごろから喫煙、夜遊びなどの非行をはじめ、三年生になつてからもその傾向を一層深め、学校の内外で喫煙、シンナー吸入、飲酒などをくり返し、欠席、遅刻など怠学も多く、教師が注意してもこれに反抗し暴言を吐くなどし、保護者の正当な監護にも服さず、このまま放置すればさらに薬物関係事犯や暴行、傷害などの罪を犯すおそれがある

ものである。

(適用法令)

一のうち窃盗の点につき 刑法二三五条、六〇条

占有離脱物横領の点につき 同法二五四条、六〇条

二について 刑法二〇四条

三について 少年法三条一項三号イ、ニ

(少年院送致の理由)

1  少年は小学校五年生のころ授業をうけなかつたり騒いだりしたため、他生徒の父兄から苦情をうけ、六年生に進む際、区立小学校から私立小学校に転校したことがあつた。中学校に入つてからの非行状況は上記三のとおりであり、その間上記一、二の各犯行に及んだものである。

2  少年に対しては、これまで教師や両親が再三説諭をし、また警察においても本件の取調べのため本年の三月、六月、七月と供述調書、申述書の作成をし、そのたびに少年から「今後は悪いことをしません」「学校にはまじめに通学します」などとの供述を得ており、当裁判所調査官も本年の五月以来何度も少年を面接調査し、「学校にはまじめに行きます、授業はきちんと受けます(中略)シンナーはすいません、以上の事を守れなければどんな処分をうけてもかまいません」との誓約書を本人に作成させたりしているのであるが、以上のような各関係者の努力にもかかわらず、少年は、本年九月二六日鑑別所に送致されるまでの非行傾向をあらためず、怠学、喫煙などを続けていたのである。

3  少年の家庭は経済的には豊かであるが、父親は仕事が忙がしく帰宅も遅く、時折厳しく少年を叱ることはあるものの、少年の行動を把握し適切に指導し続けることを期待するのは困難である。また、母親は、これまで少年を単に甘やかしあるいは放任するだけであつて、積極的に少年を立直らせようとしなかつたし、これからも少年の教育について多くを期待することはできない。

4  審判廷において母親は、少年を京都の祖母の許に預け家庭教師をつけたいと述べているが、そのような方策は一時逃れのものにすぎず、少年についての真の問題解決にはならないと考えられる。

5  以上のような諸点のほか、当裁判所調査官の調査結果および意見、少年鑑別所の鑑別結果、少年に対する中学校関係者の意見などをも総合して考えれば、この際少年を初等少年院に送致し、規律ある矯正教育をうけさせ、これまでの放恣な生活態度を根本的にあらためさせることが少年の健全な育成のために必要であり相当であると判断される(なお、在院の期間は、少年の年令、非行経過などからみて、一般短期処遇過程が相当である)。

6  そこで少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条により主文のとおり決定する。

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